広告
 

◆お知らせ◆


散策家・志歌寿ケイト主催散策会を毎月開催予定です(リンク先をご覧ください)。

2005年01月01日

東京23区・商店街歩行見聞録(仮) その017 昭和

その017 昭和 (2005年11月01日歩行)


 さて、そろそろ昭和というワードも飽きてきた頃だと思う。ところが今日は昭和も昭和、どっぷりと昭和な商店街が予定に組まれている。

 昭和というのは、ある時期を指すにはあまりに長すぎる。だからそれぞれが勝手な昭和を想像している。「昭和が好き」と言う人でも、戦前や戦中の昭和は意識になかったり、最後の十年くらいだけを指して「昭和」と言ったりする。これは「東京」という言葉にそっくりだと思う。東京はさまざまな場所がありすぎる。だからそれぞれが勝手な東京を想像している。東京とは旧東京市の範囲だけだと言う人もいるし、東京に住んでいても山手線周辺の繁華街のみしか東京のイメージに含まない人、僕のように「東京都は全て東京」と分類する者、地方だと「埼玉でもまあ東京だな」という人まで、実にいろいろなのだ。

a20051101-1.jpg

 最初に歩いた鳩の街は、水戸街道から墨堤通りを結ぶ細い街路にある商店街で、提灯が道をジクザクに横切るように下がっていた。赤線ではないが銘酒屋(私娼窟)があった地域で、よく見ればそれっぽいタイル貼りの建物が複数ある。店はほとんどが古い二階建てだ。駅に接していない割には、営業店は残っているほうだと思う。

 北東にある地蔵坂の商店街は二車線の通りで、若干建物が高い。通りが広い分、がらんとして見える。むしろ通りの北側の銭湯周辺の家屋の佇まいがかなりレトロで魅力的だと思った。便所部分が外に飛び出していて、窓枠の外れかかったようなアパートは哀愁たっぷりだ。さらに北の大正通りも同じく二車線で、こちらは小さな地場スーパーがある。かつてほんの一時期だけ南側に京成白髭線が走っていて、今でも航空写真で見るとそれらしい土地境界がわかる。寂れ具合は地蔵坂も大正通りも大差ない。

 大正通りと繋がるいろは通りは、他と比べると間口が大きい店舗が多く、上層に住居を備えたやや背が高く特徴的な造りの商店がいくつかある。また、このあたりもカフェーの跡がある。裏道にスナック街があるのもその名残だろうか。

 鐘ヶ淵へと向かうところにある西町の商店街は、鳩の街と同じく道幅が狭い。さほど賑わいはなく、建物も周囲に比べれば一般的で、ここでは写真は数枚しか撮らなかった。鐘ヶ淵には他に三本の商店街が集まる。中でも駅西側すぐのところの商店街は短いながらも超レトロな雰囲気がある。地面に商品を並べた青果店、カネボウバーバーチェーンと書かれた理容店。いまや数少ない、店名の羅列してあるアーチも見もの。鐘ヶ淵紡績があった頃は賑わったのだろうか。

 駅のベンチで休憩し、電車に一駅だけ乗って、東向島駅へ出た。商店街歩きでは公園の少ないところを通ることが多く、駅は貴重な休憩場所だ。喫茶店には入ればいいかもしれないが、屋外のトイレも限られているから、よほど暑い時でないと水分は摂りたくない。

 向島六丁目の商店群は、古い商店とくねった路地の生活感とのマッチングが最高だった。独自の街灯などは見当たらない。本当に商店会がないのか確認はしなかったが、甘味処やあられ店などまであり、過去にはほぼ商店街と同等の機能があったと思う。

 その先、曳舟川を越えると八広の商店街となる。過去には向島駅と映画館があったというが、現状はかなり厳しい立地だ。線路だけが目の前にあるのは悔しいだろうと思う。南東にはコンニャク稲荷があり、その前にも小さな商店街がある。やっている店は少なかったが、ガラスケース内に陳列するレトロなパン店を確認できた。

a20051101-2.jpg

 最後に京島にある橘の商店街を歩いた。ここは今回唯一、かなりの積極性を持って運営されている商店会だ。店舗の営業率は高く、メインの狭い通り以外にも店が広がっている。線路は南に通っているのだが駅は五百メートルほど離れていて、その割に健闘していると言って良い。もちろん二階建ての店がほとんどで、コッペパンの店やレコードを置く店などレトロな雰囲気も盛りだくさん。スーパーとも両立している。商店街入口の神社横の広場には、いつもお年寄りがたまってのんびりしている。

 と、以上淡々と振り返ってみた。この日歩いた、東向島、鐘ヶ淵、そして京島という墨田区北部のあたりは、いわゆる旧東京市ではない。寺島・隅田・吾嬬の三町が向島区となり、さらに本所区と合併して墨田区となったものだ。ここが今や東京全域で一番というくらい、古い町並みを残している。僕もその点ではとても楽しませてもらっているし、この地域の散策をひとに薦めることもある。が、現役の「街」として元気かというと、そうでもない。それはやはり、街の拠点を持てていない弱さだろうと思うし、それを跳ね返すには相当なパワーが必要だと思う。

 私娼窟の名残が味わえる鳩の街、古い家屋が迷路のような路地に集まる鐘ヶ淵、現役で頑張る橘の商店街、どれも見所はある。しかしレトロさの興奮を抑えて冷静に見れば、たまには歩きに行こうと思える街ではあるけれど、それ以上ではない。せっかく魅力のある街並みを維持し人もたくさん住んでいるのに、商業地としての魅力が乏しいのは惜しいと思う。現代に合わせた店舗の再利用を進めたり、もう少しさまざまな人に見てもらえるような売りを作ってもいいと思う。

a20051101-3.jpg

前へ  次へ

目次はこちらです。

※お問い合わせはこちらまで。
posted by 志歌寿ケイト(しかすけ) at 13:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 商店街歩行見聞録 | 更新情報をチェックする
●電子書籍『写真でつづる 東京の商店街 2005年撮影編 I 』『同 II』発売中です。
ten2005-1m.pngten2005-2m.png


商店街についての追加情報などはコメントでお寄せください。
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス(任意。表示はしません):

ホームページアドレス(任意。投稿後、名前欄からリンクします):

コメント(個人情報や店の苦情は書きこまないでください): [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

広告